数学アマノジャク

数学の入試問題の解説をしたいブログ. 「暗記数学」に対抗して「考える数学」を広めていきます. 現在は京大入試の過去問解説を中心に鋭意更新中.

カテゴリ:空間 > 複素数

概要

2020年東工大入試前期日程における,数学試験の第二問($2$)の解答例です. 本記事では複素数に注目した解答例を紹介します. それ以外の解法による解答例や,方針の立て方は後日投稿する別記事に掲載します.

試験全体の概略は速報ページに載せてあります.

問題文は以下の通りです.

問題

難易度:(1)B15,(2)B15

(1)  結構有名な問題です. 複素数の強みは長さと角度を同時に扱えるところなので,角に着目した解答を目指すと比較的容易に解答できます.

(2)  ベクトルや座標の利用の方が先に思い付いてしまいますが,(1)の誘導がついているので複素数で解いてもいいです. 今回はあえて誘導に乗って複素数で解いてみます.

複素数で解くならはじめに原点を重心に移動させると良いでしょう.

解答例

※スマホ等で文字化けする場合はpdf版をダウンロードして見てください.

(1)までで示したこと

\begin{align*} \alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2 = \alpha\beta + \beta\gamma + \gamma\alpha \tag{6} \end{align*} ($6$)は$\triangle ABC$が正三角形であるための必要十分条件.

($2$)

$A,B,C,P$を平行移動しても形状や長さは変わらないので,$\triangle ABC$の重心が原点であるような場合のみを考えればよい. つまり, \begin{align*} \alpha + \beta + \gamma = 0 \tag{7} \end{align*} のときを考える. また,点$P$を表す複素数を$p$とおく. このとき,$\triangle ABC$の外接円は原点を中心とした円になるので, \begin{align*} |\alpha| = |\beta| = |\gamma| = |p| = R \tag{8} \end{align*} である. また,($7$)を二乗した式 \begin{align*} (\alpha + \beta + \gamma)^2 = 0 \end{align*} に($6$)を代入することにより, \begin{align*} \alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2 = 0 \tag{9} \end{align*} が成り立つと分かる.

i) $AP^2 + BP^2 + CP^2$

$AP^2 + BP^2 + CP^2$を$\alpha,\beta,\gamma,p$を使って表すと, \begin{align*} AP^2 + BP^2 + CP^2 = (\alpha - p)(\overline{\alpha} - \overline{p}) + (\beta - p)(\overline{\beta} - \overline{p}) + (\gamma - p)(\overline{\gamma} - \overline{p}) \end{align*} となるので,($8$)より, \begin{align*} AP^2 + BP^2 + CP^2 = 6R^2 - (\alpha + \beta + \gamma)\overline{p} - (\overline{\alpha} + \overline{\beta} + \overline{\gamma})p \end{align*} である.よって,($7$)より, \begin{align*} AP^2 + BP^2 + CP^2 = 6R^2. \end{align*}

ii) $AP^4 + BP^4 + CP^4$

$AP^4 + BP^4 + CP^4$を$\alpha,\beta,\gamma,p$を使って表すと, \begin{align*} AP^4 + BP^4 + CP^4 = (\alpha - p)^2(\overline{\alpha} - \overline{p})^2 + (\beta - p)^2(\overline{\beta} - \overline{p})^2 + (\gamma - p)^2(\overline{\gamma} - \overline{p})^2 \end{align*} となるので,($8$)より, \begin{align*} AP^4 + BP^4 + CP^4 &= (2R^2 - \overline{\alpha}p - \alpha\overline{p})^2 + (2R^2 - \overline{\beta}p - \beta\overline{p})^2 + (2R^2 - \overline{\gamma}p - \gamma\overline{p})^2 \\ &= (6R^4 + \overline{\alpha}^2p^2 + \alpha^2\overline{p}^2 - 4R^2\overline{\alpha}p - 4R^2\alpha\overline{p}) \\ & \quad + (6R^4 + \overline{\beta}^2p^2 + \beta^2\overline{p}^2 - 4R^2\overline{\beta}p - 4R^2\beta\overline{p}) \\ & \quad + (6R^4 + \overline{\gamma}^2p^2 + \gamma^2\overline{p}^2 - 4R^2\overline{\gamma}p - 4R^2\gamma\overline{p}) \\ &= 18R^4 + (\overline{\alpha}^2 + \overline{\beta}^2 + \overline{\gamma}^2)p^2 + (\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2)\overline{p}^2 \\ & \quad - 4R^2(\overline{\alpha} + \overline{\beta} + \overline{\gamma})p - 4R^2(\alpha + \beta + \gamma)\overline{p} \end{align*} である. よって,($7$),($9$)より, \begin{align*} AP^4 + BP^4 + CP^4 = 18R^4. \end{align*}

(解答終)

コメント

(1),(2)とも第一問と同様に典型問題です. (1)は意外とはまりやすい問題. (2)も複素数でやるなら,複素数に慣れてない人だとはまるかもしれません.

(2)は基本的にはベクトルで解くのが普通でしょうし,少なくとも(1)が無ければその方が速いです. (1)があってもベクトルで解いた方が速いかもしれません.

落としたくない問題ですがはまると時間がかかるので,上手くいかなかったときは解くのを後回しにする勇気も大切かもしれません.

(1)が解けていない場合も(2)だけは解いておきたいです.

各大問の解説記事

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

過去問解説記事一覧【年度別】

概要

2020年東工大入試前期日程における,数学試験の第二問($1$)の解答例です. 本記事では夾角に注目した解答例を紹介します. それ以外の解法による解答例や,方針の立て方は後日投稿する別記事に掲載します.

試験全体の概略は速報ページに載せてあります.

問題文は以下の通りです.

問題

難易度:(1)B15,(2)B15

(1)  結構有名な問題です. 複素数の強みは長さと角度を同時に扱えるところなので,角に着目した解答を目指しましょう. 今回は,正三角形が夾角$\frac{\pi}{3}$の二等辺三角形であることに着目して解答します.

(2)  (1)の誘導がついているので複素数で解いてもいいです. 複素数で解くならはじめに原点を重心に移動させると良いでしょう.

解答例

※スマホ等で文字化けする場合はpdf版をダウンロードして見てください.

($1$)

$A,B,C$は相異なる点であり,しかも同一直線上にないことが問題の仮定として与えられているので,その下で考える.

$\triangle ABC$が正三角形であるための必要十分条件は, \begin{align*} \angle A = \frac{\pi}{3}, \quad AB = AC \tag{1} \end{align*} である. ($1$)を$\alpha \neq \beta,\alpha \neq \gamma$の下で考えていることに注意して,複素数で表現すると, \begin{align*} \gamma - \alpha = \frac{1 \pm\sqrt{3}i}{2} (\beta - \alpha) \tag{2} \end{align*} と表せる. ($2$)は,$\beta \neq \alpha$の下で \begin{align*} \frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \frac{1 \pm\sqrt{3}i}{2} \end{align*} と同値. よって,$\triangle ABC$が正三角形であるための条件は, \begin{align*} \left(\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}\right)^2 - \frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} + 1 = 0 \tag{4} \end{align*} が成り立つことで,($4$)は$\alpha \neq \beta$の下で \begin{align*} (\gamma - \alpha)^2 + (\beta - \alpha)^2 - (\gamma - \alpha)(\beta - \alpha) = 0 \tag{5} \end{align*} と同値.($5$)を展開すると \begin{align*} \alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2 = \alpha\beta + \beta\gamma + \gamma\alpha \tag{6} \end{align*} となるので,($6$)は$\triangle ABC$が正三角形であるための必要十分条件.

(証明終)

コメント

これも典型問題です. ただ,意外とはまりやすい問題なので試験場だと落とすこともあるかもしれません.

各大問の解説記事

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

過去問解説記事一覧【年度別】

概要

2020年京大入試前期日程における,理系向け数学試験の第一問の解答例です. 試験全体の概略は速報ページに載せてあります.

問題文は以下の通りです.

問題

難易度:A20

解答例

※スマホ等で文字化けする場合はpdf版をダウンロードして見てください.

(*)の解がなす正三角形を$T$と呼ぶことにする. $a,b$は実数なので,$z$が解ならば$\overline{z}$も解. よって,$T$は実軸対称. $T$の一辺の長さは$\sqrt{3}a$であるので,実軸対称であることと合わせると,(*)の解の組は,実数$t$と$1$の$3$乗根の一つ$\omega = \frac{-1 + \sqrt{3}i}{2}$を用いて, \begin{align*} (a + t,a\omega + t,a\omega^2 + t) \text{または} (-a + t,-a\omega + t,-a\omega^2 + t) \end{align*} のどちらかで表せる.よって, \begin{align*} z^3 + 3az^2 + bz + 1 = (z - (a + t))(z - (a\omega + t))(z - (a\omega^2 + t)) \tag{1} \end{align*} または \begin{align*} z^3 + 3az^2 + bz + 1 = (z - (-a + t))(z - (-a\omega + t))(z - (-a\omega^2 + t)) \tag{2} \end{align*} のどちらかが恒等的に成り立つ.式$1,2$それぞれについて,$z^2$の項の係数を両辺で比較すると, \begin{align*} t = -a \end{align*} が式$1,2$のどちらでも成り立つと分かる. よって,式$1$の右辺の定数項は$0$であり,左辺と一致しないので式$1$は成り立たず,式$2$が恒等的に成り立つと分かる. 式$2$の定数項を比較して, \begin{align*} 2a^3 = 1 \end{align*} が得られる.$a$は実数なので, \begin{align*} a = \frac{1}{2^{\frac{1}{3}}}. \end{align*} また,式$2$の$z$の項の係数を両辺で比較して, \begin{align*} b &= 3a^2 \\ &= \frac{3}{2^{\frac{2}{3}}}. \end{align*} が得られる.また,(*)の$3$つの解は \begin{align*} z &= -a + t,-a\omega + t,-a\omega^2 + t \\ &= -2^\frac{2}{3},\frac{1}{2^{\frac{4}{3}}}(-1 \pm \sqrt{3}i) \end{align*} である. (解答終)

コメント

$1$の三乗根が正三角形をなすことを理解していればそこまで難しくはないはず. 正三角形の向きが$2$通りしか考えられないので式$1,2$のどちらかと絞り込めています.

各大問の解説記事

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

こちらもどうぞ.

※2019年の問題の解説です. 2020年はこちらにまとめてあります.

概要

前回に引き続き2019年の東工大数学の解説です. 解説記事ですが予備校の解答速報がまだなので解答速報代わりにも使えると思います.

今回は第三問を解説します. 複素数平面上の格子点に関する問題です.

問題

難易度:B30

問題は複素数で与えられていますが,いわゆる格子点の問題と大きな違いはありません.

普通格子点の問題は「ある領域に含まれる格子点の数を求めよ」となっています. ですから,領域を求めてしまえば後は数え上げてしまうだけです. ところが,この問題では,「ある領域に含まれる『格子点から変換された点』の個数を求めよ」となっています. 図形内部の格子点の数を数えるのなら,図形を座標平面に書いて数えるだけなので簡単ですが,格子点を変換した点の数を数えるのは大変です. いちいちどこに移るのか考えて内部か外部か判定して…

わざわざ問題文に従って数えにくいやり方で数えるのはやめましょう. 「点の集合(図形)$A$に含まれる『格子点から変換される点』の個数」の代わりに,「変換すると集合$A$に含まれるような点の集合$A'$に含まれる格子点の個数」を数えればいいのです. 後者で数える方が明らかに簡単です.

余談ですが,この集合$A'$のことを$A$の変換による逆像といいます. ちなみに,この問題の変換$f:z \mapsto \frac{z}{3 + 2i}$ ($f(z) = \frac{z}{3 + 2i}$を変換であると注目した書き方) は$1$対$1$対応なので,逆像$A'$は逆変換$f^{-1}$による$A$の像として求めることができます. また,軌跡と領域の問題で使われる解法「逆像法」の名称もここから来ているはずです.

解答例は次のようになります.

解答例

※スマホ等で文字化けする場合はpdf版をダウンロードして見てください.

(1)

$|3 + 2i| = \sqrt{13}$であるから,$|\frac{z}{3 + 2i}| = \frac{|z|}{\sqrt{13}}$である. よって,$M(r)$は実部と虚部が共に整数であるような複素数$z$のうち,$|z| \leqq \sqrt{13} r$をみたすものの個数と等しい. いま,絶対値が$2$以下の整数$a,b$を用いて$z = a + bi$と表される複素数$z$の絶対値の二乗を計算すると表$1$のようになる.

【表$1$】

$a \backslash b$ $-2$ $-1$ $0$ $1$ $2$
$-2$ $8$ $5$ $4$ $5$ $8$
$-1$ $5$ $2$ $1$ $2$ $5$
$0$ $4$ $1$ $0$ $1$ $4$
$-1$ $5$ $2$ $1$ $2$ $5$
$2$ $8$ $5$ $4$ $5$ $8$

$a$または$b$が$3$以上のとき,$|z|^2 \geqq 9$であるので,表$1$とあわせ,$M(r)$は \begin{align*} \begin{cases} M(r) \leqq 9 & (r < \frac{2}{\sqrt{13}}) \\ M(r) = 13 & (2 \leqq r < \sqrt{\frac{5}{13}}) \\ M(r) = 21 & (\frac{2}{\sqrt{13}} \leqq r < 2\sqrt{\frac{2}{13}}) \\ M(r) \geqq 25 & (r \geqq 2\sqrt{\frac{2}{13}}) \end{cases} \end{align*} をみたす. よって,求める集合は,$\left\{ r | \frac{2}{\sqrt{13}} \leqq r < 2\sqrt{\frac{2}{13}} \right\}$である.

(2)

変換$f : z \mapsto \frac{z}{3 + 2i}$の逆変換は $f^{-1} : z \mapsto (3 + 2i)z$であるから,考える領域の$f$による逆像は,$L(0,3 + 2i)$,$L(3 + 2i,2 + \frac{7i}{2})$,$L(2 + \frac{7i}{2}$,$\frac{1 + 5i}{2})$,$L(\frac{1 + 5i}{2},\frac{-1}{2} + 4i)$,$L(\frac{-1}{2} + 4i,-2 + 3i)$,$L(-2 + 3i,0)$で囲まれる領域の内部または境界である. $M = \left\{ f(z) | \exists a,b \in \mathbb Z, z = a + bi \right\}$なので,求める$M$の要素の個数は複素数平面上でこの領域の内部または境界に含まれる格子点の数と等しい.

この領域を複素数平面上に図示すると,$(a,b)=(-2,3)$,$(-1,2)$,$(-1,3)$,$(0,0)$,$(0,1)$,$(0,2)$,$(0,3)$,$(1,1)$,$(1,2)$,$(2,2)$,$(2,3)$,$(3,2)$の計$12$個の格子点が含まれていると分かる.

(解答終)

コメント

解答は以上のようになります. (2)の領域は,問題文で与えられた領域を拡大して回転させたものです. 管理人の技術不足により図を描いていませんが,この問題のこの解答で図を描かなかったら最悪減点もありえます. 試験場では絶対に図を描きましょう. このブログでも早く図を載せたいですね.

逆像法的な考え方を使うと言う点では軌跡・領域に近い問題です. 複素数の掛け算が複素数平面上での拡大縮小と回転に対応するということが分かっていれば難しくありません.

(1)が簡単なのは拡大縮小だけを考えればいいからです. (2)が面倒なのは回転があるからだと気づかせるための誘導でしょうか. (1)が集合を求めさせる問題になっているのも,(2)で逆像法のような考え方を思いつかせるための工夫に思えます.

気づいてしまえば(1)より(2)の方が答案が短いというのはなんとも皮肉な結果ですね.

各大問の解説記事

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

過去問解説記事一覧【年度別】

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