概要
自作の模試を作るシリーズ第四弾です.
今回の模試『令和3年度私擬無冠模試』はどこの大学も冠さない,ただの自作模試です.
東工大入試と京大特色入試の中間くらいの難易度だと思うので,忙しい受験生は避けた方が無難です.
時間のゆとりがあるときに,やりたい問題だけやってみてください.
5問構成で推奨試験時間240分です.
問題ファイルは以下のリンクからダウンロードできます.
以下では解答例を載せているので,問題を解こうとしている方は見ない方が良いと思います.
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過去の自作模試の問題・解答です.
これらは難易度を一般入試に合わせているので,本模試より問題演習に適切な難易度かもしれません.
目次
模試の難易度評価
本模試の大問構成,分野,配点,難易度評価は以下のようになっています.
無冠模試の分野・配点
- 整数・ベクトル (C60), 40点
- 微積分 (B35), 40点
- 代数 (B40), 40点
- ゲーム理論 (B60), 40点
- 数列 (C45), 40点
模試全体の構成
どこの大学も模さないということで,一般入試ではあまり見かけないような問題が中心です.
高校範囲の知識で解けますが,入試で出てきたら「新傾向」と言われるような分野や,一般入試では少し難しかったり,面倒だったりする問題が多めです.
模試全体の難易度
時間内に解こうとすると,第一問,第四問が鬼門になると思います.
第一問は上手く思いつけば短時間で解答できますが,なかなか思いつきにくいと思います.
対照的に,第四問は作業量が多いだけで,根気よく実験していけば,どちらの小問も特別な発想なく解答可能です.
一方.第二問・第三問は一般入試レベルの問題なので,まずはここから取り組むとやりやすいでしょう.
第五問も実験すれば予想くらいは立てられると思います.
まずは第二問,第三問,第五問の予想までやってみて,その後に第一問,第四問,第五問の証明でできそうなものからやっていくという流れでしょうか.
総評
$4$時間で全問出来る人は間違いなく凄いですが,$3$問程度の正解でも一般受験層のかなり上位に位置しているのではないかと思います.
「面倒」な問題が多いですが,第一問以外は手が出る問題だと思うので,模試として考えれば$1, 2$問正解するのが目標でしょうか.
各大問の解答の方針と講評
大問ごとの概要です.
第一問 整数・ベクトル (C60), 40点
第一問の解答
概要 (第一問)
ベクトルと整数の融合問題です.
この問題はR. L. Graham,B. L. RothschildとE. G. Strausが1974年に発表した定理を基にしています.
本問では,その定理で$n= 2$とした場合を誘導付きで考えています.
なお,元の定理はThe American Mathematical Monthlyに掲載された,"Are there $n + 2$ Points in $E^n$ with Odd Integral Distances?"に載っているので興味があれば参照してください.
方針 (第一問)
(1)は実際に$(2k + 1)^2$を計算すればすぐにわかります.
(2)では(1)が誘導になっているので,まずは(1)の結果を(2)で使いやすいように適当に一般化しておくと良いでしょう.
その後は,背理法を使うと比較的易しく解けます.
講評 (第一問)
誘導も付けたのでそう難しくないだろうと思っていましたが,見込みが外れたようです.
(2)は直接示すのはしんどいので,背理法で示すことになると思いますが,その次の手が見えにくかったかもしれません.
背理法の仮定が,$A, B, C$が同一平面上にあるということを意味するとさえ見抜ければ,力技でも解答可能です.
解答例では,内積と角を利用しています.
原案では誘導無しで
「どの$2$点間の距離も奇数であるような$4$点は同一平面上にないことを示せ」
という問題文を考えていたので,やさしくするための誘導のせいで余計難しくなってしまったかも?
第二問 微積分 (B35), 40点
第二問の解答
概要 (第二問)
フレネル積分を題材とした微積分と数列の問題です.
他の問題と比べると,一番一般入試の問題に近い問題だと思います.
方針 (第二問)
$s = t^2$のように置換するとかなり見えやすくなります.
あとはそれぞれの小問の目標に向かって良い評価を探していきます.
講評 (第二問)
(1)と(2)は似た考え方をしますが並列的な構成になっているので,どちらを先に解いても大丈夫です.
片方が解ければもう片方もそれなりにやさしく解けるようになっています.
(2)の不等式評価の方がひねりが少なくて多少解きやすいかもしれません.
この大問からもう少し考察すると,有界な単調済列が収束することさえ認めれば,$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n$と$\displaystyle \lim_{n \to \infty} b_n$が存在して,両者が等しいことを示せます.
すると,値は求まりませんが,フレネル積分の$x \to \infty$の極限が存在することも容易に示せます.
値を求めたい場合は複素関数として考えて,留数定理を用いるのが有効です.
第三問 代数 (B40), 40点
第三問の解答
概要 (第三問)
複素数と似て非なる数体系である「分解型複素数」が題材です.
複素数における「極形式」に相当するものを考える問題です.
方針 (第三問)
(1)は定義にたがって計算すれば自然と示せます.
(2)はただの見掛け倒しで,簡単な領域の問題です.この問題独特の概念はほとんど必要ありません.
(3)は,ド・モアブルの定理の証明とほとんど同様に示せます.
講評 (第三問)
この五問の中だと一番簡単な問題です.
第二問と第三問は,一般入試で出題されても捨て問にはならないと思います.
手間は多少かかりますが,それも他の問題と比べればそこまで大したことはありません.
(2)では,境界は含まず$(0, 0)$だけが含まれます.
そこまで重要というわけではないですが,一応注意しながら解くといいでしょう.
第四問 ゲーム理論 (B60), 40点
第四問の解答
概要 (第四問)
かの有名な「三目並べ」です.「二人零和有限確定完全情報ゲーム」とよばれるゲームの一種になります.
分野は「場合の数」にしようかとも思ったのですが,しっくりこなかったのでそのまま「ゲーム理論」ということにしました.
「組み合わせ」なら妥当なのですが.
手間がかかるので,この手のタイプは一般入試では出題されませんが,京大特色入試のような時間にゆとりのある試験だと見ることもあります.
方針 (第四問)
(1)
「ゲーム木」の考え方が有効で,それに近いものを考えれば上手く示せます.
すべての盤面を考えると図示・場合分けだけでも大変です.
対称性を利用して似た盤面を同一視するなど,とにかく場合分けを減らすことが肝心です.
解答例では$10$程度の場合分けに抑えています.多分もっと減らせるはず.
(2)
(1)が誘導になっています.
実験してみると,(1)より少し大きい盤面では勝てることが分かるはず.
講評 (第四問)
解答例のようにたくさん図示する必要はありません.あれは手書きでやるものではないです.
書き出せばすぐ分かるのは明らかなので,場合分けが発生する個所など,要点を抑えれば十分です.
有名な題材ですが,数学の対象として考えたことのある人はほとんどいないと想像します.
最重要な$3 \times 3$がとても面倒なので練習問題としてやりにくいのだと思います.
既知の人が十分いることが想定されるので,実際の入試でも出しにくいですね.
もう少しひねったオリジナルのゲームを考えることになると思います.
第五問 数列 (C45), 40点
第五問の解答
概要 (第五問)
Wikipediaで偶然見つけた「Van Eck数列 (Van Eck's sequence)」という数列の構成ルールをいじっていたら,この数列になりました.
元々人工的な数列ですが,それをさらにいじったので極めて人工的な感じのする数列になっています.
方針 (第五問)
一般項が予想できるまで実験しましょう.
予想した後は帰納法がやりやすいと思います.
講評 (第五問)
そう難しい問題ではないと思いますが,見た目に圧倒されやすいかもしれません.
第四問の後なのも,難しく見える要因になりそうです.
実際は一般入試でも出題できる程度の難易度です.
まあまず見たことのない数列だと思うので,実験する以外ないですね.
この数列自体は一応発見されているようで,OEISには登録されています.
ただし,本問の漸化式は記述されていなかったので,未発見だったのかもしれません.
ちなみに,Van Eck's sequenceもOEISに登録されています.
(ii)の2.の部分で, $$ a_{n + 1} = 0 $$ とすればVan Eck's sequenceになります.
独り言
問題により難易度・手間が激しく異なるので,手のつきそうな問題だけ解く方が楽しめるかもしれません.
ちなみに,今回はほぼ新作です.
次の模試も考えてはいますが,10月は大手予備校の模試のシーズンなので,早くても11月の上旬になると思います.
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