概要
未発表の過去作を集めて自作の模試を作るシリーズ第二弾です.
今回の模試『令和3年度後期私擬京大入試』も京大模試です.
6問構成で試験時間150分です.
問題ファイルは以下のリンクからダウンロードできます.
7/23: 問題不備があったので補足しました.
以下では問題の概要や解答例に触れているので,問題を解こうとしている方は見ない方が良いと思います.
各大問の解答例は以下のリンクからどうぞ.
目次
模試の難易度評価
本模試の大問構成,分野,難易度,配点は以下のようになっています.
自作京大模試の難易度評価
- 積分 (AA15), 30点
- 図形の論証 (A15), 30点
- 整数 (A20), 35点
- 整数・確率 (B30), 35点
- 数列 (B25), 35点
- 図形の論証 (C30), 35点
自作問題なのでいつも以上に主観的な評価になっていることに注意してください.
近年ならやや易しめの難易度,というつもりですが,解き方次第で計算量や見通しやすさが大きく変わるので,人によって感じる難易度が大きく異なると思います.
数学が得意な人には簡単に,苦手な人には (本来以上に) 難しく感じるなら思惑通りなのですが……
模試全体の難易度・構成等
前半は意図的に易しくしています.
易しくしすぎた気もしますが,下手に難しい方にぶれても仕方がないのでこんなものかなと思っています.
前半はスピーディーに解いて,後半に時間を回せれば最後まで十分解ききれると思います.
後半は難しめ.
試験場なら前半完答,後半の一問以上完答あたりがボーダーになりそうです.
得意な人なら後半でも二問は安定して解答できると思います.
2020年の難易度評価
参考用に,2020年の京大入試の難易度評価を置いておきます.
- 複素数 (A20), 30点
- 整数 (A25), 30点
- 図形の論証 (B25), 35点
- 整数 (C30), 35点
- 場合の数 (B20), 35点
- 求積 (A25), 35点
難易度表記の説明
カッコ内の難易度表記はAA,A,B,C,Dの五段階による難易度評価と,演習する際の標準的な解答時間(五分刻み)です. 試験場では様々な要因により,ここに書いてあるよりも苦戦すると思います.難易度評価は,それぞれ
- AA:解けないと周りの受験生とかなり差がついてしまう問題
- A:解ければとりあえず数学が足を引っ張ることはない,という難度の問題
- B:解けると周囲に対してやや優位に立てるが,解けないとやや不利になる問題
- C:数学が得意なら正答が狙える難度で,解けなくても困らないが,解けると大きく優位に立てる問題
- D:難易度が高すぎて点数と釣り合わない,いわゆる「捨て」の問題
であることを大まかに表しています.
大体『大学への数学』より(受験生に)厳しい評価で,『京大の理系数学27ヵ年』よりは甘い評価かなと思います. 数学が苦手な人は最低限Aの問題を確実にBの問題をできるところまで,数学が得意な人はCの問題まで完答するのが目標かなと思います. 難易度Dの問題はどんなに数学が得意な人でも部分点狙いが現実的でしょう. 個人的にはこの難易度の出題は作問者の判断ミスだと思っています.
各大問の解答の方針と講評
大問ごとの講評です.
第一問 積分 (AA15), 30点
第一問の解答・解説記事一覧
概要 (第一問)
積分の問題です.
有名な性質なので知っている人も多いかもしれません.
方針 (第一問)
置換積分してから部分積分すると$I$が求まります.
講評 (第一問)
計算したことがある人は少ないと思うのですが,もしいたらすみません.
ただ,京大入試の第一問では $$ \int_0^\frac{\pi}{4} \frac{\mathrm{d}x}{cos x} $$ の計算をさせることもあった (2019年第一問問二(2)) ので,既知の問題が出題される可能性は十分あると思います.
簡単すぎる気もしますが第一問なのでこの程度でも大きな問題はないでしょう (参考:2015年第一問など).
でも,小問集合にした方が良かったかもしれません.
第二問 図形の論証 (A15), 30点
第二問の解答・解説記事一覧
概要 (第二問)
空間図形の問題です.
解くための道具は自分で選んでください.
方針 (第二問)
適当に頂点に名前を付けて,ベクトルで解くのが比較的楽だと思います.
座標でも解けますし,初等幾何で解くこともできます.
コメント (第二問)
この手の問題は京大入試ではよく出てきます.
京大入試ではまだこの構図は出題されていませんが,本問ももしかしたらやったことがある人がいるかもしれません.
例えば,塾のテキストや,予備校の模試の問題では同じ構図の問題が収録されている可能性も高そうです.
ところで,この問題の$T'$のような多面体のことを双対多面体といいます.
面を頂点に取り替えたものに相当します.
正四面体の双対多面体は正四面体ですが,立方体の双対多面体は正八面体,正八面体の双対多面体は立方体になります.
また,正十二面体の双対多面体は正二十面体で,正二十面体の双対多面体は正十二面体です.
つまり,二つ (または一つ) の多面体がペアになっています.
第三問 整数 (A20), 35点
第三問の解答・解説記事一覧
概要 (第三問)
かの有名なピタゴラス数の問題です.
中学生でも一応解けるはずです.
小学生だと「証明」という概念を持っているかどうかが一番の問題になります.
方針 (第三問)
「因数分解」,以上.
(1)は背理法で示すのがやりやすいと思います.
講評 (第三問)
(1)と(2)は一応並列の小問になっていて,簡単すぎる問題の「かさ増し」という側面もあります.
(1)と(2)の考え方はほとんど同じなので,どちらか一方が解ければもう一方も解けるはずです.
そういう意味では,両方とも誘導問題であるともいえるかもしれません.
いずれにせよ簡単な問題なので,もし試験場で出たら示せないと厳しいと思います.
雑談
有名すぎて問題としてはやったことはないと想像しているのですが,数学をちゃんと教える学校や塾に通っている人は解いたことがあるかもしれません.
と,思っていたのですが,私自身小学校時代に(2)を考えた記憶があることに気付きました.
考えたと言っても,当時は証明という概念をよく知らなかったので,それですべてだとは分かってなかった気がします笑
そういうわけで,実はかなりの人が一度は考えたことがあるのではないかとも思います.
だとすると,「入試」の問題としては不適切だということになりますね.
第四問 整数・確率 (B30), 35点
第四問の解答・解説記事一覧
概要 (第四問)
第四問は整数,しかも$n$進法と確率を組み合わせた自信作です.
あまり整数と確率の融合問題は見かけないですよね.
(1)は有名問題ですが,知らない人もいるかもしれないので小問で分割してあります.
今は一次不定方程式が明確に範囲内なので,「知らない」というのも変な話なのですが.
方針 (第四問)
(1)はユークリッドの互除法で示すか,合同式と鳩の巣原理 (部屋割り論法) を組み合わせて示すのがよくある示し方だと思います.
解答例では前者で示していますが,後者の方が(2)につながりやすい上,書きやすいと思います.
(2)は(1)を活用するのですが,そのままだと使えないので一意性も示す必要があります.
(1)を鳩の巣原理で示すと一意性も同時に示せるので,(2)の解答が楽になります.
講評 (第四問)
「p進法の九九表」と言えば伝わるでしょうか.
元ネタはそれで,(2)では表からランダムに一つの数を選んでいます.
前半は薄味な問題が多かったですが,これは後半を解く時間を設けたいという思惑によるものです.
後半は少し骨のある問題が続きます.
本問は小問で分割したこともあり,手間のかかり具合で言えば第六問以上に面倒かもしれません.
見通しは立ちやすいと思うので,総合的な難易度としては第五問,第六問の方が難しいと思います.
(1)は書きにくい論証ですが,教科書レベルなので全く書けないのはまずいです.
多少言葉足らずになってしまうのは仕方ないとも思いますが,大筋は抑えてください.
第五問 数列 (B25), 35点
第五問の解答・解説記事一覧
概要 (第五問)
数列の問題です.
京大入試だと90年代,00年代によく見かけたような,少し古い印象もします.
とはいえ,この年代の問題が再利用されることもありましたし (2020年第一問),京大入試の傾向は数十年間にわたって安定しているので,今年出題されても違和感はないと思います.
方針 (第五問)
条件が一つしかないので色々試すしかありません.
しばらく実験してみると,漸化式が得られると思うので,そこからどうにか示していきます.
$\log$をとると見通しが立ちやすいと思いますが,とらなくても解答できます.
講評 (第五問)
それなりに難しいとは思いますが,実験癖さえあれば十分解答可能なはずです.
$a_n$が具体的に表せないので存在だけ証明していますが,逆関数の合成として表すことはできます.
第六問 図形の論証 (B30), 35点
第六問の解答・解説記事一覧
補足後
補足前
概要 (第六問)
図形の論証問題です.
「垂線の足」という表現は最近,教科書会社で自主?規制されているようなので,数研出版で採用されていた「垂線の交点」という表現を使いました.
普通に「垂線の足」と書きたいですし,解答では今後も使用予定ですが,さすがに教科書にない用語を模試の問題文で使うわけにはいかないですね.
方針 (第六問)
初等幾何,座標どちらでも解答可能です.
共円問題ということもあって,初等幾何なら反転,座標なら複素数平面を使うのが有効ですが,どちらも使わなくても証明できます.
初等幾何で示す場合は凸四角形の場合と凹四角形の場合があることに注意する必要があります.
座標で示す場合は場合分けが要らないので,初等幾何でも示せるにもかかわらず,かなり有力です.
ただし,対角線が座標軸になるようにしないと,計算量が大変なことになります.
座標で示す場合は最初の設定が肝心です.
座標で表した後は円周角でも方べきの定理でも好きなように示せばいいと思いますが,複素数を使うと対角の和が$\pi$となることが簡単な計算で示せます.
講評 (第六問)
それなりに有名な定理のはずです.
例えば,このpdfファイルでは凸四角形の場合ですが,Theorem 3として紹介されています.
http://forumgeom.fau.edu/FG2012volume12/FG201202.pdf
初等幾何で示す場合はこのpdfの証明が参考になると思います.
なお,問題不備があったので途中で補足しています.失礼しました.
当初反転で考えていたので,普通直線と円が区別されるということを忘れていました.
※反転では直線も円と考えるほうがうまくまとまる
ちなみに,凸四角形だと直線にならず,凹四角形の場合だけ直線になることがあります.
一応複素数の問題のつもりですが,別に複素数で示す必要はありません.
独り言
元々は過去作中心でストックを消費する予定だったのですが,完成したときには第六問以外新作になった上,ストックも逆に増えてしまいました.
第六問は問題不備があって補足したので,結局ストックそのままの問題は一問も採用されなかったことになりますね笑
次回は8/22公開予定の東工大模試ですが,早ければ9月初旬にももう一つ公開できそうです.
おそらくどこの大学の入試も模さない,「無冠模試」になると思います.
理学部特色と東工大一般の中間くらいの難易度の問題群を予定しています.
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