概要
前回の投稿からかなり間が開いてしまいましたが,更新を再開します.今回から2013年京大入試の理系数学を解説します.今回は第一問を解説します.
目次
問題
問題文を見てみましょう.
難易度:AA20
典型的な図形問題です. 平面図形の問題では主にベクトル,初等幾何,座標 (複素数平面含む) のいずれかを利用して解きますが,この問題はどの方法でも特に支障はなさそうで,実際,どれでも解くことができます. ただし,座標で解く場合は,座標軸が直交しているメリットがないので,斜交座標を用いるとよさそうです.
では,実際に問題を解いていき,どの様な方針を立て,どの道具を使っていくのがよいのかについて考えてみましょう.
方針の決定
どのような方針で解いていくのかを検討します. まず,問題文を読んでみると,受験勉強を長く続けてきた人なら,この問題文が全てベクトルの言葉で表現できるという事実に気がつくかもしれません. この時点ですぐにベクトルに決めてしまいたくなりますが,ここではまだ我慢.
難関大学 (特に京大) の入試問題では,外見と中身が大きく違う問題が多くありますから,第一感で思いついた方針が途方もない遠回りだった,ということがよくあります. 幸いこの問題ではベクトルで十分容易に解けますが,いつもそうとは限りませんし,もっと良い方針があるかもしれません. 国立大の二次試験は試験時間に余裕がありますから,「罠にはまる」リスクを避けるためにもう少しだけ観察してみた方が良いでしょう.
問題文はそのまま図に描き起こせますので,インスピレーションを得るために実際に図を描いてみます. すると,図$1$のような図が得られます.この図,どこかで見たことがあるような気がしませんか?
図$1$:問題の場面の概略
そう,中学・高校受験でよく出る「相似」の問題で見かけるような図です. このような図が与えられて,線分の比を求めるような問題を小中学生のときに解いたことがあると思いますが,この問題はそれと同じタイプの問題になっています.
以上から,この問題はベクトルで解く方針のほかに,相似比を利用して解くという方針が考えられると分かりました. 大抵の場合,ベクトルで解くよりも,相似比を使って解く方が計算量が減るので,基本的には相似を使って解きたくなります. ところがこの問題の場合,ベクトルで解くか相似で解くかはかなり悩ましい選択になります.
というのも,相似で解く場合,図$1$では三角形の相似が存在しないため,補助線を引かなければならないので,補助線を見つけるのにかかる時間と,ベクトル計算にかかる時間を考慮する必要があるからです. 補助線を見つけるのにあまり時間がかかりすぎるようなら,ベクトルで解いた方が早く終わります. 「思いつくのにかかる時間」を見積もるのはとても難しいので,どちらの方針で解くか迷いますが,大体次のような基準で方針を選べば良いでしょう.
方針選択の目安
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図を描いて相似の問題だと気づき,すぐに補助線の見当がついた場合
⇒迷わず相似で解答.
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相似の問題が得意,またはかつて得意だった人で,図を描いてすぐには補助線が思いつかなかった場合
⇒しばらく補助線を探して見つかった場合は相似で解答. 見つからないようならベクトルで解くか,一旦判断を保留して他の問題を解き,余った時間の量から判断.
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相似の問題が苦手,またはかつて苦手だった人で,図を描いてすぐには補助線が思いつかなかった場合
⇒図を利用しつつベクトルまたは斜交座標で解答.どちらで解いても良いが斜交座標の方が若干イメージしやすいかもしれない.比が使えるかもしれないということが分かっているなら斜交座標による解法も思いつけるはず.
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図を描いても相似の問題だと気づかなかった場合
⇒解法を探す時間がもったいないのでベクトルで解答.斜交座標による解法に気づいた場合は斜交座標で解くのもあり.
なお,「斜交座標による解法」はベクトルによる解法と本質的には変わりません.どちらを選ぶかは趣味の範囲です. 一応,斜交座標の場合$AD$を$x$軸にすると,$P$の$x$座標を求める問題に帰着できる ($A,Q$の$y$座標は問題で与えられている) ので,記述量を削減しやすくなるとは思います.
各方針の概略と評価
ここでは解答例の紹介はせず,各方針の概略だけ述べておきます. 詳細な解答例はリンク先で見てください.
1.ベクトルによる解法
難易度:AA20
一番標準的な解法です. 問題文は全てベクトルの言葉で表現可能なので,逐次数式に置き換えていって比を計算します. 時間は多少かかりますが特別な発想が必要ないので一番やりやすいでしょう.
なお,一番オーソドックスなこの解法での解答難度・時間を問題の難易度評価にしています.
2.初等幾何による解法
難易度:B10
相似比を考える解法で,小中学生でも一応解くことができます. この問題は中学・高校受験の問題としては最難関校レベルですね. 煩雑な計算を回避することができるので極めて短時間で解くことができます. $5$分以内で答案まで書き上げることも可能でしょう.
ただし,問題文をそのまま図にした段階では相似な三角形の組がありませんから,補助線を引く必要があります. 正解に至ることができる補助線の引き方は複数通りありますが,例えば次の図$2$のように補助線を引けば相似な組を見つけられるでしょう.
図$2$:補助線の例
このような補助線を見つけるまでにかかる時間が読めないのがこの解法のネックです.
3.斜交座標による解法 (解答例なし,投稿未定)
難易度:AA20
例えば,$BC$を$x$軸,$BA$を$y$軸として解く解法で,基本的にはベクトルによる解法と同じ解法です. ただし,線分を座標平面の直線の方程式で書き下せ,見慣れた表現で書くことができるなど,少し違った部分もあります.
ベクトルによる解法と本質的には変わらないので,どちらで解いても時間等変わらないはずですが, ベクトルに苦手意識があるならこちらの方が少しだけ解きやすいかもしれません. また,前述のとおりこの問題のように,一つの座標成分のみを考える場合,ベクトルで書くより記述量が減らせるかもしれません. ベクトルでも一つの成分だけを考えることは出来るはずですが,上手く日本語に落とし込むのが難しそうです. 解答例は上げていませんが,ベクトルによる解法を参考にすれば容易に解くことができるでしょう.
コメント
この問題は京大入試の問題としてはかなり簡単な部類に入ります. 正確に,かつスピーディーに解いていきたいですね.なお,どの解き方も十分自然な解法ですから,演習ではどの解法でも解けるようにしたいです.
追記 (2/24) :どれも自然と言っていますが,斜交座標はあまり使わない表記なのでその意味では自然とは言えないかもしれません. ただ,斜交座標による解法はベクトルによる解法を別の表現に言い換えたものに過ぎないので,ベクトルで解けるなら座標でも解けるはず.
各大問の解説記事
- 2013年京大第一問
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- 2013年京大第三問
- 2013年京大第四問
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- 2013年京大第六問
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このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.
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