※2019年の問題の講評です. 2020年はこちらにまとめてあります.

※この記事は当ブログ管理人一個人による私的な見解です.

※数学のみの講評です.他の科目はやりません.また,管理人が東工大入試にそこまで詳しくないことに留意して読んで頂けると幸いです.

この記事は2019年東工大入試の,数学の問題についての講評です.

なお,各大問の詳細な解答は個別の記事およびpdfで掲載しています. 以下のリンクから閲覧可能です.

概要

2019年の大問構成,分野,このブログでの難易度評価は以下のようになっています.

2019年の難易度評価

  1. 図形量の最大最小(B25),60点
  2. 積分方程式(B40),60点
  3. 複素数(B30),60点
  4. 数列((1):B25,(2),(3):D35),60点
  5. 数列(A20),60点

なお,カッコ内の難易度表記はAA,A,B,C,Dの五段階による難易度評価と,演習する際の標準的な解答時間(五分刻み)です.試験場では様々な要因により,ここに書いてあるよりも苦戦すると思います.

難易度の目安ですが,それぞれ

  • AA:解けないと周りの受験生とかなり差がついてしまう問題
  • A:解ければとりあえず数学が足を引っ張ることはない,という難度の問題
  • B:解けると周囲に対してやや優位に立てるが,解けないとやや不利になる問題
  • C:数学が得意なら正答が狙える難度で,解けなくても困らないが,解けると大きく優位に立てる問題
  • D:難易度が高すぎて点数と釣り合わない,いわゆる「捨て」の問題

というつもりで書いています. 大体『大学への数学』より(受験生に)厳しい評価で,『京大の理系数学25ヵ年』よりは甘い評価かなと思います. 数学が苦手な人は最低限Aの問題を確実にBの問題をできるところまで,数学が得意な人はCの問題まで完答するのが目標かなと思います. 難易度Dの問題はどんなに数学が得意な人でも部分点狙いが現実的でしょう. 個人的にはこの難易度の出題は作問者の判断ミスだと思っています.

問題の難易度ですが,全体的に明らかに難化しました. ここ数年の一般入試の入試問題としては,どこの大学の大問のセットよりも難しいセットになっています. 難問がよく出題された$80$~$90$年代の入試問題と同じくらいの難易度ですから,数学以外の科目で点数を稼ぐ受験者で,一問も完答することなく合格する人が現れてもおかしくないと思います. ただし,試験時間が$180$分と一般入試の試験時間としては長く,問題も大問$5$つと少ないため,「一番難しい数学の試験」であるのかは微妙です.

大問の構成については,[2]は計算量が多い問題ですが,それ以外の問題は発想力重視で,思いつきさえすれば,比較的短時間で解ける問題ばかりなのも特徴です. また,[4]は極めて高い難易度であるものの,他の大問については数学が得意な受験生であれば十分時間内に完答することも見込める難易度です. 全受験者のうち全問完答しきった人はいても数名程度だとは思いますが,$4$問完答した人はぽつぽついるかも知れません.

この試験はほぼ全ての問題が演習に適した良問という,極めてまれな状況にもなっており,作問者の能力の高さが見て取れます. 東工大の入試問題は年によって質が大きく変わると言う問題はあるものの,良問を量産する大学の一つです. 発想と計算量のバランスも取れており,[4]を除けば数学が得意な人を見分ける良い試験問題となっています.

しかし,全ての大問の難易度が高止まりしているため,数学があまり得意でない受験者間ではほとんど点差がつかないと思われます. これが数学を捨て科目とする受験生が増える原因として問題視され,近年極端に難しい問題の出題が避けられるようになった経緯があるのですが…

各大問の解答の方針と講評

第一問 図形量の最大最小(B25),60点 解答例(pdf版)

問題の概要と方針

三角形および四面体に関する不等式証明の問題です. 式を闇雲にいじってもなかなか解けませんが,等号成立条件から式の形を予想すれば簡単に解答できます.

講評

特に難しい問題ではありませんが,いきなり「予想して証明」という数学らしい解き方が要求される問題です. 一定の数学力がないと手の出しようもないという意味では恐ろしい問題で,数学が苦手な受験者間で点差がつかないという2019年東工大数学を象徴する問題と言えるかもしれません.

第二問 積分方程式(B40),60点 解答例(pdf版)

問題の概要と方針

典型的な積分方程式の問題です. 両辺を微分できるよう式の形を手直しすれば,後は計算するだけです.

講評

[1]とは対照的に,発想は難しくないけど,計算量が多いと言う問題です. 余りにも計算量が多く普通の大学では出題しなさそうな問題で,独特の社会的役割を担っている東工大らしい問題と言えるかもしれません. 東工大入試は時間に多少ゆとりがありますが,余った時間はこの問題に優先的に使いたいです.

第三問 複素数(B30),60点 解答例(pdf版)

問題の概要と方針

複素数平面と格子点についての問題です. 複素数の乗算を座標変換と見ることさえできれば難しくありません. 軌跡・領域の「逆像法」のような考え方をさせる不思議な問題です.

講評

[1]と同様,思いついたら比較的短時間で解答できる問題です. 複素数の特性を理解していればそこまで難しくないですが,複素数は苦手な人の多い分野. 問題の構造を見抜けないと膨大な作業量に押しつぶされます.

第四問 数列((1):B25,(2),(3):D35),60点 解答例(1) 解答例(2),(3)(pdf版)

第四問(1) 解答例(pdf版)

問題の概要と方針

何枚かの平面によって分割される空間領域の個数を考えさせる問題で,数列を構成するというこの問題独特の解法があります.

講評

有名な題材で,この問題そのものが過去に入試問題として出題されたこともあったはずです. 「新作の労を惜しむ東工大」ということでしょうか. 有名問題であるため,問題集等にこの問題の類題や全く同じ問題が載っていることも多いので,演習で解いたことのある人も多いかと. 解法を知っていれば比較的容易に解けたと思います. この問題は標準的な難易度ですが,小問$3$題中の一問であるため,難易度・解答時間と配点が釣り合わず他の大問より優先順位は低め. ただし,(2),(3)の正答率が非常に低い場合に,(1)の配点が多くなることも考えられるので,時間にゆとりがあれば,(1)までは解答した方が良さそうです.

第四問(2),(3) 解答例(pdf版)

問題の概要と方針

(1)と同じ題材について$2,3$番目に大きいものを求めさせる問題で,(1)が解ければ結果の予想自体はそこまで難しくありません. ただし,実際にその値を実現させる平面の組の存在を示すのは大変です. また,(3)では$n = 4$に落とし穴があります.

講評

(1)の後に解いたとしたときの難易度評価です. 2019年の目玉問題ですが,入試問題としてはほとんど機能しない捨て問です. 一般入試の問題としては高すぎる難易度で,プレッシャーのかかる試験場で完答するのはほぼ不可能です. 京大特色入試レベルの問題で,十分な時間を与えられた環境で一時間くらいかけて解くのが適切な問題です. 配点も他の問題より少ないですから,この問題を解く意味はほとんどありません. ただし,正答率の低い問題は採点基準が甘くなることがあるので(1)同様,結果の予想や証明の方針,小さい$n$の値での具体的な結果等を書いておくのは部分点狙いとして有効かもしれません. かつて「数学帰納法で示す」と書けば部分点をもらえた問題もありました.

第五問 数列(A20),60点 解答例(pdf版)

問題の概要と方針

数列の最大値を求める,大抵の問題集にも載っているような典型問題です. 誘導に乗って基本方針通りにやるだけです.

講評

唯一易しめの大問です. この大問が[1]の位置にあればパニックにならなかった人もいるかもしれません. 典型問題なので完答したい問題なのですが,[1]~[4]が解けなくて焦ってしまうと,この問題も難しそうに思えて完答できない可能性もあります.

コメント

受験生時代の管理人は大体これくらいの難易度のセットが好きでした (ただし[4]を除く).

とはいえ,この試験のままでは数学が多少苦手な受験生と数学が全くできない受験生との点差がつきません. [4]の(1)の前に誘導をつけた上で配点を引き上げ,[5]を[1]の位置に持っていけばより細かく学力を測れたように思えます.

各大問の解説記事

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

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