※2019年の問題の解説です. 2020年はこちらにまとめてあります.

概要

今回から2019年の東工大数学を解説します. 解説記事ですが予備校の解答速報はまだなので解答速報代わりにもなるかもしれません. 非動画形式の過去問解説記事($\neq$解答速報)としては一番早いのではないでしょうか.

今年の京大数学はやや易化しましたが,東工大は史上まれに見る難しいセットになっています. 今回は第一問を解説しますが,いきなり骨のある不等式証明です.

問題

難易度:B25

図形量に関する不等式証明です. 京大でも毎年のように出題される分野で,時々このような聞かれ方をされます. $\frac{p^2 + q^2 + r^2}{S}$の最小値を求めよ.という聞き方だと難しくなりすぎる場合,このように問題文中に最小値を与えて証明させます. 答えの形から証明方法を予想できるようにした,ということです. この手の問題は考えられる式変形のパターンが膨大なので,図形的考察により見通しを立てないとどうにもなりません. 数式を図形的に捉えさせる問題で,入試では頻出ですが上手くできない人が多いように思えます. 図形から数式への変換ばかりやっているせいでしょうか. (1)が(2)の誘導になっているように見えますが,実態としては(2)は(1)ができた人へのおまけになっています. (1)ができれば(2)は$5$分で解けます. (1)も発想一発で解けてしまうので,思いつけば$5$分で解けます. $25$分中$15$分は思いつくための時間のつもりです. とても京大らしい問題です. あれ?

なお,東工大の試験時間は$180$分で,今年は大問が$5$つ.一大問あたり$36$分解答に使えますから,この問題はどちらかといえば易しめの問題に入ります. では,早速解答,と行きたいところですがこの問題は数式をいじくってもなかなか答えが出ません. 式の形にあたりをつけて変形していかなければなりません. まずは解くための手がかりを探していきましょう.

問題文でも聞かれていますが,等号つきの不等式では,等号成立条件を考えることがあります. 大抵等号が成立するのは変数に高い対称性がある場合です. 例えば,正の実数に関する不等式$\frac{x + y}{2} \geqq \sqrt{xy}$の等号は$x = y$で成り立ちます.

この問題のような図形に関する不等式では,図形が対称的である場合に等号が成り立つことが多いです. 最も対称性の高い三角形は正三角形ですから,三角形$OPQ$が正三角形の場合を試して見ましょう. $h,t,s$の定義から,三角形$OPQ$が正三角形になる条件は \begin{align*} h &= \frac{\sqrt{3}}{2} (t - s) \\ s &= -t \end{align*} となるときと求められます. つまり,$h - \frac{\sqrt{3}}{2} (t - s) = 0$かつ$s + t = 0$となるとき等号が成立すると言うことですから$\alpha (h - \frac{\sqrt{3}}{2} (t - s))^2 + \beta (s + t)^2 \geqq 0$のような形にもって行きれば証明できます. 今回それを目指して変形していくと,これと全く同じ式が導けてしまいます. どの問題でもここまで上手くいくこととは限りませんが,この問題のようにすぐに示せてしまう場合もあります.

では,解答例を紹介します. 予想が立っているとあっけなく終わってしまいます.

解答例

※スマホ等で文字化けする場合はpdf版をダウンロードして見てください.

($1$)

三点の決め方から, \begin{align*} p^2 + q^2 + r^2 &= 2h^2 + 2s^2 + 2t^2 - 2st \\ S &= \frac{h(t - s)}{2} \end{align*} である. よって, \begin{align*} 2h^2 + 2s^2 + 2t^2 -2st \geqq 2\sqrt{3}h(t - s) \end{align*} を示せばよい. 右辺を移項して整理すると, \begin{align*} 2\left(h - \frac{\sqrt{3}}{2}(t - s) \right)^2 + \frac{(s + t)^2}{2} \geqq 0 \end{align*} とできるので,確かにこの不等式が成り立つことが示された. また,等号が成立するのは$h = \frac{\sqrt{3}}{2}(t - s)$かつ$s = -t$となるときであることも分かる.

(証明終)

($2$)

($1$)の等号成立条件が成り立つとき,三角形$OPQ$は正三角形である. また,任意の三角形について,($1$)のような座標を取ることができ,正三角形なら$h = \frac{\sqrt{3}}{2}(t - s)$かつ$s = -t$をみたす.

つまり,($1$)により,以下の定理の成立が示された.

任意の三角形$XYZ$に対し,その辺の長さを$x,y,z$,面積を$S$とすると,不等式 \begin{align*} x^2 + y^2 + z^2 \leqq 4\sqrt{3} S \end{align*} が成り立つ. また,等号が成立する条件は三角形$XYZ$が正三角形であることである.

このことから,三角形$ABC,DBC,DCA,DAB$の面積をそれぞれ$S_1,S_2,S_3,S_4$とすると,不等式 \begin{align*} a^2 + b^2 + c^2 &\leqq 4\sqrt{3} S_1 \\ a^2 + m^2 + n^2 &\leqq 4\sqrt{3} S_2 \\ b^2 + n^2 + l^2 &\leqq 4\sqrt{3} S_3 \\ c^2 + l^2 + m^2 &\leqq 4\sqrt{3} S_4 \end{align*} が成り立つと分かる. $T=S_1+S_2+S_3+S_4$であるから,この四つの不等式を辺々足し合わせることにより,不等式 \begin{align*} a^2 + b^2 + c^2 + l^2 + m^2 + n^2 \geqq 2\sqrt{3}T \end{align*} が成り立つと示された. また,$4$不等式の等号成立条件から,等号が成り立つのは四つの面が全て正三角形のとき,すなわち四面体$ABCD$が正四面体のときであると分かる.

(証明終)

コメント

解答は以上のようになります. (1)の変形が思いつけば(2)まで一直線に示せます.

見通しが立てば簡単ですが,見通しが立たないと手も足もでない問題です. 一問目からこのような出題がなされるとは,なんとも恐ろしい大学です. ここ数年の問題は嵐の前の静けさだったと言うことでしょうか.

各大問の解説記事

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