数学アマノジャク

数学の入試問題の解説をしたいブログ. 「暗記数学」に対抗して「考える数学」を広めていきます. 現在は京大入試の過去問解説を中心に鋭意更新中.

前回に引き続き2018年京大理系数学の問題解説です.月曜の入試までに解説を終わらせたいですね.ですので,今回はすぐに解説に入っていきます.

今回扱う問題は下の問題です.今回から大問番号のとなりに難易度表記をすることにします.前回は大問別の難易度一覧があったので省略しました.

[2](A15) (30点)
 $n^3 - 7n + 9$が素数となるような整数$n$をすべて求めよ.

典型的な整数問題です.一行しかない問題文は京大ではよく見かけるスタイルです.整数分野は独自の解法が多数存在するため,まずそれを抑える必要があります.一応指導要領に整数分野が入ったとはいえ,授業内で十分解法が網羅できるとはいえません.

ですので,まず自分で解法を体系的に習得する必要があります.現状受験生が苦手とする代表的な分野の一つなので,それさえできれば割とどうとでもなります.この問題はそのどうとでもなる問題の一つです.

京大では整数問題が良く出題されますが,この問題はその中でも最も簡単な部類に入ります.京大受験生のほとんどが正解したでしょう.2017年の整数問題は比較的難しかったのでその反動かもしれません.正解するのは当たり前,いかに正確に短時間で完答できるかと言う問題ですね.15分としていますが,10分でも長いかもしれません.

さて,解答の方針ですが,この手の問題はまず実験するに限ります(問題文を読み終わった時に答案が思いついているなら話は別ですが).もちろん解答には書きませんが,一番重要な段階です.

ここで,与式に$n = 0,1,2,3$を代入してみると,全て3の倍数になります.この時点でもうこの問題は解けたも同然.全ての$n$で3の倍数になることを示せば解決です.

[解答例]

3を法とする合同式を考える.整数$n$は$n \equiv 0,1,2$のいずれかをみたす.
(i)$n\equiv 0$のとき
\begin{align*}
    n^3 - 7n + 9 &\equiv n^3 - n    \\
    &\equiv 0 - 0   \\
    &\equiv 0
\end{align*}
であるので$n^3 - 7n + 9$は3の倍数.
(i)$n\equiv 1$のとき
\begin{align*}
    n^3 - 7n + 9 &\equiv n^3 - n    \\
    &\equiv 1 - 1   \\
    &\equiv 0
\end{align*}
であるので$n^3 - 7n + 9$は3の倍数.
(i)$n\equiv 2$のとき
\begin{align*}
    n^3 - 7n + 9 &\equiv n^3 - n    \\
    &\equiv 8 - 2   \\
    &\equiv 0
\end{align*}
であるので$n^3 - 7n + 9$は3の倍数.
以上より,任意の整数$n$で$n^3 - 7n + 9$は3の倍数.よって,$n^3 - 7n + 9$が素数となるような整数$n$の条件は,
\begin{align*}
    n^3 - 7n + 9 = 3    \\
    \therefore (n - 1)(n - 2)(n + 3) = 0
\end{align*}
をみたすときである.よって,求める$n$は1,2,-3である.
(解答終)

解答は以上のようになります.合同式を使うと簡潔になりすぎるので計算過程を一応書いています.いちいち場合分けを書かずに,$n\equiv 0,1,2$について計算すると0と合同になると記述しても多分大丈夫だと思います.特につまづくポイントはありません.

$p$の倍数の素数は$p$だけ,というのがこの問題の唯一のポイントです.正直この手の問題は何度も出題されていて二番煎じどころではない気がします.今年の早稲田理工でも類題が出題されています.こっちは誘導つきで.

$n$が整数であることに注意してください.負の場合も含みます.自然数と勘違いして減点されないように注意.とはいえ,正しく記述していたらそれなりに部分点がもらえるのかもしれません.

発想,計算量$\approx 0$な問題です.2018年では一番簡単な問題ですね.次回は同じく2018年京大理系の第三問です.おつかれさまでした.


各大問の解説記事は以下のリンクからどうぞ.
2018年京大第五問

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

もうすぐ国公立大学の二次試験が始まりますね.と言う訳でちょうど一年前に行われた京都大学の入試問題を解説してみたいと思います.

この記事は記念すべき記事第一号なので,問題の解説に移る前に,京大入試数学全体についても軽く説明します.問題の解説以外興味の無い方は適当に読み飛ばししてください.

まず,ここ数年の傾向についてですが,数学の難易度はやや高めで安定しています.多くの大学で数学が易化している中,我が道を行っている感じです.問題自体は前期日程の国立大学入試の中で最も難しいかもしれません.演習なら全完を安定させることもできると思いますが,試験場で狙うのは無謀です.よっぽどプレッシャーに強い体質なら別ですが.

京大数学の基本的な特徴としては,
1.比較的ゆとりのある時間設定
2.小問の少ない問題構成
3.抽象的な問題設定
の3つがあります.独自路線を歩んでいる大学ですので,他にも多くの特徴がありますが,とりあえずこの3つを抑えておけば良いかと.なのでこの3つについて軽く説明しておきます.

1.比較的ゆとりのある時間設定

最難関といっても過言ではない京大数学ですが,時間的にはさほど厳しくありません.各問題の解答の下書きを書いて清書しても,見直しするだけの時間が余っているような時間設定です.

まず下書きを書いてから解答を清書することをおすすめします.

2.小問の少ない問題構成

このように,京大入試では他大学ほど時間に追われずに解答することができます.では,京大数学のどこが難しいのでしょうか.

それは,単純に問題が難しいからです.京大数学の問題は,小問が1つから2つある大問6つで構成されていますが,問題が難しい理由の一つがこの少ない小問の数にあります.他大学では誘導問題になっているような問題が誘導なしで出題されるため,どうやって解くのかを自分で考えなければならず,それが難しい要因の一つになっています.

3.抽象的な問題設定

さらに,京大数学が難しいとされる理由がもう一つあります.それは,問題設定が抽象的であるという京大数学最大の特徴です.

問題が抽象的であるため,状況がイメージしにくかったり,逆にイメージできても証明方法が思いつかないというのがその理由らしいです.とはいえ,抽象的である分具体的な数値計算は少なくて済むので,必ずしも抽象的な問題が難しいという訳ではないと管理人は思っています.

以上のように,京大数学は他の難関大学とは違った特徴を持っています.ですので,特に過去問演習が大切です.最終的にはこのブログだけで演習できるようにしたいですね!

さて,実はこの記事のメインは問題の解説です.早速解説,といきたいところですが,その前に2018年京大理系数学全体を振り返ります.

この年の難易度は昨年とあまり変わりません.ただ,[6]の難易度を高いと評価する人なら,やや難化と判断するかもしれませんね.

2018年の問題の特徴として,比較的問題の難易度にバラツキがない,というのが挙げられるでしょうか.とはいえ,これは2017年にも当てはまります.今年も当てはまるようなら,それが作問者の狙いということなのでしょう.

この特徴から,ある程度数学ができないとまともに得点できないようになっています.また,逆にある程度のレベルに達していれば,どの問題も十分完答できる難易度になっています.

このようなセットにすると受験者の得点分布の分散が小さくなるように思えますが,某予備校の資料によると逆にかなり分散しています.きちんと議論できているかが得点に大きく影響しているのでしょう.

全体としては大して難易度に差はありませんが,概ね難易度順に並んでいます.2018年京大理系前期の各大問の分野と難易度(主観)をまとめると次のようになります.
[1]:領域の範囲(A20)
[2]:整数(A15)
[3]:図形量の最大最小(B25)
[4]:確率漸化式(B20)
[5]:弧長(B25)
[6]:図形の論証(C35)
京大入試でよく見かけるジャンルばかりですね.弧長は最近大流行の分野ですが,基本的には普通の数Ⅲ微積問題と変わりありません.なお,カッコ内の難易度表記は「過去問演習」での,A,B,C,Dの四段階による難易度評価と,標準的な解答時間(五分刻み)です.試験場では様々な要因により,ここに書いてあるよりも苦戦すると思います.

難易度の目安ですが,それぞれ
A:解けないとまずい問題
B:「差がつく」問題
C:解けると差をつけられる問題
D:いわゆる「捨て」の問題
というつもりで書いています.大体『大学への数学』より(受験生に)厳しい評価で,『京大の理系数学25ヵ年』よりは甘い評価かなと思います.数学が苦手な人は最低限Aの問題を確実にBの問題をできるところまで,数学が得意な人はCの問題まで完答するのが目標かなと思います.難易度Dの問題はどんなに数学が得意な人でも部分点狙いが現実的でしょう.個人的にはこの難易度の出題は作問者の判断ミスだと思っています.

また,解答時間もあくまで目安です.高得点を取るなら少なくともこの程度の時間で終わらせようというものなので,できればこれよりもさらにはやく清書し終えられるようにしたいですね.

ここまで,京大数学の概要等を軽く大まかに説明しました.思ったより長くなってしまいましたが気にしないことにします.ようやく本題に入れますね.

今回扱う問題は下の問題です.

[1] (30点)
 0でない実数$a$,$b$,$c$は次の条件(i)と(ii)を満たしながら動くものとする.
    (i) $1 + c^2 \leqq 2a$.
    (ii) 2つの放物線$C_1:y = ax^2$と$C_2:y = b(x-1)^2 + c$は接している.
ただし,2つの曲線が接するとは,ある共有点において共通の接線をもつことであり,その共有点を接点という.
    (1) $C_1$と$C_2$の接点の座標を$a$と$c$を用いて表せ.
    (2) $C_1$と$C_2$の接点が動く範囲を求め,その範囲を図示せよ.

いわゆる「軌跡・領域」の問題です.この分野の問題では,数式や図形を正しく処理できるかが問われます.おそらく採点基準が最も厳しい分野の一つでしょう.数式と図形を絶えず行き来する解法も考えられないことはないですが,基本的にはどちらか一方をメインとする方がうまくいくと思います.

数式的に解く場合は,条件式を論理的に等価な条件(i.e.同値な条件)に変形する問題とみなせます.条件式を論理式として記述することができれば機械的に処理することも可能なので,一種の計算問題と捉えることもできます.

図形的に解く場合は事情が異なります.今後別の記事で書くかもしれません.この問題を図形的に解釈して扱うのは厳しい気がします.ただ,答えの形はきれいなので,実は上手くやる方法があるのかもしれません.試験場では素直に計算したほうが良さそうですが.

この問題の全体的な位置づけとしては(条件の論理的の処理を含めた広い意味で)計算問題でしょう.大して難しくありませんが,おそらく答えが少しでも違ったり処理におかしなところがあれば大減点をくらうと思います.

と言う訳で,すばやく解いて見直しをするのが有効そうな問題です.解説するポイントも少ないのでさっさと終わらせてしまいましょう.

[解答例]

(1) 一般に2つの曲線$y=f(x)$と$y=g(x)$が点$(x,f(x))$で接するのは,
\begin{align*}
    f(x) &= g(x) \\
    f'(x) &= g'(x)
\end{align*}
をみたすときである.よって,$C_1$と$C_2$の接点の座標を$(x,y)$とすると,
\begin{align*}
    \tag{1}
    a{x}^2 &= b(x-1)^2 + c \\
    \tag{2}
    2ax &= 2b(x - 1) \\
    \tag{3}
    y &= a{x}^2
\end{align*}
が成り立つ.式(1)に式(2)を代入すると,$a \neq 0$より
\begin{align*}
    a{x}^2 &= ax(x - 1) + c   \\
    \tag{4}
    \therefore x &= \frac{c}{a}
\end{align*}
となる.式(3)に式(4)を代入して,
\begin{align*}
    \tag{5}
    y &= \frac{c^2}{a}.
\end{align*}
よって,求める座標は$(\frac{c}{a},\frac{c^2}{a})$である.

(2) 求める範囲は,次の集合である.
\begin{align*}
    \{ (x,y) \in \mathbb{R}^2 | \text{(i)をみたし$(x,y)$が$C_1$と$C_2$の接点となる実数$a,b,c \neq 0$が存在する} \}
\end{align*}
ここで,(1)前半にあるように接点の定義から,
\begin{align*}
    (x,y)\text{が$C_1$と$C_2$の接点}    \\
    \Leftrightarrow \text{(1)かつ(2)かつ(3)}
\end{align*}
であることに注意すると,この集合は
\begin{align*}
    \{ (x,y) \in \mathbb{R}^2 | \exists a,b,c \in \mathbb{R}, a \neq 0,b \neq 0,c \neq 0,(1),(2),(3),(i) \}
\end{align*}
と等しい.(1)後半の式変形から,
\begin{align}
    \exists a,b,c \in \mathbb{R}, a \neq 0,b \neq 0,c \neq 0,(1),(2),(3),(i)    \\
    \Leftrightarrow \exists a,b,c \in \mathbb{R}, a \neq 0,b \neq 0,c \neq 0,(2),(4),(5),(i)
    \tag{6}
\end{align}
となるので,条件(6)を考える.条件(4),(5)は$c \neq 0$のもとで
\begin{align*}
    \tag{7}
    a = \frac{y}{x^2}   \\
    \tag{8}
    c = \frac{y}{x} \\
    \tag{9}
    x \neq 0
\end{align*}
と同値.よってこれを代入した条件式を考えれば
\begin{align*}
    (6) \Leftrightarrow \exists a,b,c \in \mathbb{R}
    \begin{cases}
        a = \frac{y}{x^2} & (7)   \\
        c = \frac{y}{x} & (8) \\
        b = \frac{2ax}{x - 1} & ((2)\text{の(7),(9),$b\neq 0$のもとでの変形})  \\
        x \neq 1 & (\text{同上,上と合わせて(2)と同値})  \\
        x^2 + (y - 1)^2 \leqq 1 & (\text{(i)に代入})\\
        x \neq 0 & (9)   \\
        y \neq 0 & (a,c \neq 0\text{に代入})
    \end{cases}
\end{align*}
と分かるので($b \neq 0$は残りの条件から言えることに注意),存在量化を除去して
\begin{align*}
    (6) \Leftrightarrow
    \tag{10}
    \begin{cases}
        x^2 + (y - 1)^2 \leqq 1 \\
        x \neq 0   \\
        x \neq 1
    \end{cases}
\end{align*}
と言える($y \neq 0$は残りの条件から言えることに注意).よって,条件(10)をみたすような点$(x,y)$全体(点$(0,1)$を中心とした半径地の内部を含めた円全体から$y$軸と点$(1,1)$を除いたもの)が求める範囲.
(解答終.図示省略)

解答は以上のようになります.論理式の変形は記述量が大変なことになるので式番号を使って記述の重複を避けています.正直言って読みづらいので改善したいところです.図示もできればやりたいですね.

特につまづくポイントはありませんが,強いて言うなら全体がつまづくポイントですね.単純な式変形が長々と続くので些細なミスが連発しそうです.

いわゆる京大らしい問題とは違いますが,毎年一問はこのような発想<<計算量な問題が出題されます.この手の問題は簡単な問題として扱われることが多いですが,個人的には一番苦手な問題でした.正答率が高い分落とすと痛いですし.

とりあえず今回はここまでです.次回は同じく2018年京大理系の第二問です.おつかれさまでした.


各大問の解説記事は以下のリンクからどうぞ.
2018年京大第五問

このブログの全記事の一覧を用意しました.年度別に整理してあります.

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